Event Report イベントレポート

イベントレポート 2013.08.23

Cannes Lions International Festival of Creativity 2013

今年6月16日~22日にフランスのカンヌで行われた第60回目のCannes Lions International Festival of Creativityに行ってきました。

早渕 夏美

株式会社インテグレート
統合ソリューション部 第3グループ PRプランナー

早渕 夏美

Cannes Lions International Festival of Creativity 2013
2013.08.23

今年6月16日~22日にフランスのカンヌで行われた第60回目のCannes Lions International Festival of Creativityに行ってきました。

(写真1)
写真1

(写真2)
写真2

私は今年が初の参加でしたが、エキサイティングな会場内外のセミナーやイベントに驚き!特に今年はカンヌライオンズ60周年ということもあり、Nikeの伝説的パートナーと呼ばれるWieden+Kennedy創業者Dan Widen氏など広告界の大御所が世界中から審査員として参加、そしてゲストスピーカーにはデザイナーのVivien Westwoodや俳優でプロデューサーのJack Blackなどが参加していて、アワードもセミナーも大盛況。

(写真3)
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(写真4)
写真4

外では、昼間はGoogleやYahoo!、Twitterなど各社がビーチ沿いにブースを展開していたり、またビーチサッカー大会が開催されてたり。

夜はGala Partyが開催されていたり、はたまた会場入り口目の前では1週間かけて3D巨大アートを書き上げているManfred Stader氏がいたり。

今年は92カ国から全35,765件がエントリー、日本からのエントリー数は1,093。全体のエントリー数、日本からのエントリー数ともに過去最多を更新しています。その中から厳選された作品が16部門別にアワードを受賞しました。初めてカンヌライオンズに参加して感じたことは、PRやクリエイティブ界でも南米やロシア、アジアなどの新興国の作品がアメリカ、そして日本とは一線を画していて非常に興味深かったということ。

彼らは、自分たちの政治的、経済的な国情を逆手に取った施策や、または国が抱える社会問題の解決の一助になるような施策などを発表しており、勢いがありました。今後も注目していきたいです。

そして、今回、作品全体を通して私が感じた2013年の傾向は以下です。

「"人"を動かす」の先にある「"社会"を動かす」視点へ

今年のカンヌの賞を総なめにした、オーストラリア・メルボルンの鉄道会社が行った事故防止啓発作品「Dumb ways to die」(制作:McCANN MELBOURNE,)は過去最多のフィルム・PR・ダイレクト・ラジオ・チタニウムの5部門同時グランプリ受賞という、偉業を達成しています。

(写真5)
写真5

作品:かわいらしいアニメーションとゆるい曲調でマヌケな死に方を複数紹介する曲。その中でも最もマヌケなのは鉄道で転落して死ぬことであるというのがオチ。

特徴は、動画だけでなく、鉄道内での広告、カラオケバーションのBGM、ゲームアプリ、ラジオ局への無料楽曲提供等を通じて、情報拡散を仕掛けて話題化に成功している点と、実際の死亡事故も21%減少し、課題を解決している点です。

この施策のコアアイデアが優れているのは、メインターゲットである若者のインサイトに寄り添い、本来であればネガティブでシリアスな話題を、おもしろ可笑しく180度変換してコンテンツ化した点だと思います。さらに、そのコンテンツを最大限に拡散し、ターゲットのみならず人の興味関心を捉えた点が素晴らしかったと言えるでしょう。

また、社会貢献度の高さで、特に印象的だった作品はペルーの工科大学が設置した屋外看板広告作品「Portable water generator」です。

(写真6)
写真6

(賞:アウトドア部門ゴールド、プロモ&アクティベイト部門ゴールド他/広告主:ペルー工科大学支部/制作:MAYO DRAFTFCB, Lima)

入学希望者を増やすべく、大気中の水分から飲料水を作り出せる屋外看板広告を設置した作品です。この装置は大学の研究で開発されたもので、リマに住む数百世帯が1ヶ月に消費する量にあたる9,450Lの水を作り出すことができます。水不足で悩むペルーのリマにこの看板を設置したことで、その確かな技術力から大学の価値が認められ、大学の入学希望者が前年より138%アップ、このジェネレーターは他の地域へも展開される予定です。この作品のコアアイデアは大学のプロモーションに、大学の技術を活用し、その技術を市民の生活に役立つ形で伝えたことだと思います。市民が大学の広告看板に“通う”という新たな行動を生み出し、生活を豊かにしている点はもはや広告の域を超えています。優れた発想とクリエイティビティによるキラーコンテンツといえるでしょう。大学の課題解決だけでなく、大学の技術が生む豊かな生活を体現しながら地域の問題解決までもしている点で非常に感動した作品でした。

本来、コミュニケーションとは、ヒト・モノ・場所などの存在自体がコミュニケーションであり、例えば広告であれば、そこに存在するだけで意味を持っていたり、ヒトが動いていたのではないかと思います。そして今、次世代コミュニケーションツールの代表格としてテクノロジーやソーシャルメディアがありますが、今回の各部門のショートリストに残っている作品を見ても、モバイルやテクノロジーを活用した生活者とのタッチポイントをもっている作品は非常に多かったです。一方、それらが私たちの生活にいかに寄与するのか、社会をどう変えるのかというところまでを伝えるためのPR戦略をもって、実行・課題解決している作品はやはり限られていました。よって、ふと振り返ったときに、テクノロジーが先行しすぎて、そのテクノロジーの存在意義が曖昧になっているというケースがありうるのではないかと思いました。

実際に、今年のモバイル部門のグランプリはフィリピンの通信会社が行った「Smart TXTBKS」でした。子供の教科書のデータが入ったSIMカードを、使わなれなくなった古い携帯電話に入れて、電子書籍化した施策。活用方法は至ってシンプル、しかし発想の転換や考え方ひとつで今までになかったことを実現し、市民の生活に大きく貢献した好例といえるでしょう。

以上が、私が感じた今年の傾向です。改めて個人的な印象を一言でいうならば、「原点回帰」が最もしっくりきます。今年は特に60周年ということもあり、広告界の大御所と呼ばれる方々が審査員にり、60周年ならではの色がそこに表現されたのかもしれません。

また、「原点回帰」と先に述べましたが、もちろんテクノロジーが実現する新たなコミュニケーションを活用しない手はなく、生活者のインサイトを捉えたコアアイデアを生み出す際には必ず視野にいれていくべきツールでもあることは間違いありません。しかし今必要なのは、最終的に消費者、生活者がどうなることがゴールなのかを明確にイメージし、そこを起点に次世代のコミュニケーションツールも最大限活用した施策とPR戦略を合わせて考えていくことなのではないかと今回のカンヌライオンズでは強く感じました。

そして、グランプリには選ばれなかったもののコアアイデアが素晴らしく、個人的に気に入った作品を1つ、紹介します。

それは国連ドイツ支部が行った世界の女性の強制結婚反対キャンペーンです。

(写真7)
写真7

「Free the forced」(賞:モバイル部門ゴールド/広告主:国連ドイツ支部/制作:Cheil Germany)

毎年6千万人の女性が強制結婚をさせられているという事実はほとんど知られていません。私自身も、はじめて知りました。

国連ドイツ支部では、女性の強制結婚の課題を可視化して伝えるために、恋人同士が愛を誓うために南京錠をかけることで有名なドイツの橋で3,500個もの南京錠を使ってメッセージ“FREE THE FORCED”の文字を描きました。そこを通った人は、南京錠のQRコードをスキャンすれば、世界の強制結婚についての実情を知ることができます。そして、そこから寄付をすると南京錠の相性番号をもらうことができ、自らの手で南京錠を解くことができるというキャンペーンです。もちろん、そのQRコードはソーシャルメディアへの拡散もできる仕組みも兼ね備えていました。結果、facebookの国連ページへのアクセスも400%増、寄付金もあつまり、3日間でほぼ南京錠はなくなりました。この作品のコアアイデアは、参加者のアクション(愛を象徴する場所で、南京錠を自らの手で解く)になるかと思いますが、このコアアイデアの素晴らしい点は以下の点にあると思います。

・実施場所の設定(愛を象徴する場所)
→逆転の発想で、あえてドイツ国民誰もが知っている“愛”の象徴の場を使い、自由に人を愛することを許されない女性の存在を訴えることで、その場に行った人そして行っていない人の感情をも動かすキャンペーンになったのでしょう。また、愛を象徴する場所で、真反対のメッセージを訴える大量の南京錠の絵は、非常にフォトジェニックで、個人がシェアをしたくなる、メディアがニュースにしたくなる要素も十分に含んでいます。

・コアアイデア=参加者のアクションに、メッセージ(女性解放)を落とし込んだこと
→生活者に訴えたいメッセージは”女性解放“。しかし、そのメッセージを生活者に自分ごと化してもらうためのブリッジを何にするかが難しいのです。問題が深刻すぎます。しかし、上記の場所で生活者の関心を引き、テクノロジーとデバイスを活用することで、気軽にそのキャンペーンの意味を【知る→寄付→南京錠を解く→シェア】というアクションをその場で一瞬にして起こせるような流れを作ったのです。南京錠といえば、鍵や相性番号があることで解けるものですが、その鍵を握るのは参加者一人ひとりであり、その南京錠を参加者自らの手で“解く”意味が、国連の伝えたい“女性解放”というメッセージにうまくリンクしていたため、参加者のハートにもダイレクトに響いたのではないかと思います。

愛を象徴する場所で南京錠がつくる「Free the forced」というメッセージの存在感とモバイルテクノロジーが、最大限のコミュニケーション効果を生んだと言えるでしょう。非常に心を打たれる作品でした。

以上が、2013年のCannes Lions International Festival of Creativityの報告レポートになります。

PR部門の審査員長を務めたPRマーケティング会社・Ketchum社DAVID GALLAGHER氏は、「今後のPR業界に必要なものは、楽しく生活者とつながり、実際により良い変化をもたらすようなコンテンツである。そしてPRのエッセンスはメッセージを拡大させることで、それを成し得たのが今年のグランプリを総なめにした「Dumb ways to die」である」と述べていました。

現状、PR部門の賞を受賞しているのはほとんどが広告会社の作品であることも鑑みると、今後は広告・PR問わず、コンテンツ力もさながら、施策にそのコンテンツが広がるだけのクリエイティビティ要素がいかにあるかも求められるでしょう。

(写真8)
写真8