Event Report イベントレポート

イベントレポート 2013.08.23

Cannes Lions 2013 レポート

今年で60回目を迎える世界最大の広告クリエイティブの祭典、Cannes Lions 2013に参加してきました。

内田 英樹

株式会社インテグレート
デジタルクリエイティブグループ マネージャー/クリエイティブディレクター

内田 英樹

Cannes Lions 2013 レポート
2013.08.23

今年で60回目を迎える世界最大の広告クリエイティブの祭典、Cannes Lions 2013に参加してきました。

写真A
写真A

南仏のリゾート地、カンヌは、日本よりも湿度が低く温暖な気候で、メイン会場はビーチのすぐそばという最高のロケーションです。空の青さがとても印象的。

写真B
写真B

前日に会場を下見に行ったのですが、まず目に入ったのが60周年を記念して特別に書き下ろされたライオンのイラストのビルボードでした。これはCannes Lionsに便乗した何かのパロディ!?と間違えてしまったほど、従来のクールなライオンのトレードマークはどこへやら、、と言った感じで、見慣れると可愛いのですが、このイラストに関しては賛否両論あったそうです(笑)。

写真C
写真C

Cannes Lionsの会場では、パスの登録を済ませると「Cannes Lionsセット」とでも言うべきグッズが1式貰えます。ノベルティとは思えないほど丈夫なキャンバス地のバッグの中に、各種セミナーのフライヤーやアワードセレモニー(受賞作品の表彰式)の招待状、チョコレートのおみやげなどが入っています。

写真D
写真D

さらに参加者全員にCannes Lions Tシャツもプレゼント。開催期間中は多くの人がこのCannes Lionsバッグを持ち歩き、さっそくTシャツを着てる人もいたりして、街中がCannes Lionsのお祭りムード満載になっていました。

2013年のCannes Lionsでは、新たに革新的なプラットフォーム、ソフトウェア、プロダクトなどを評価する"Innovation"部門が新設されたため、全部で16部門のカテゴリーとなり、作品の総エントリー数は過去最高の35,765点だったそうです。

そんな世界中の優れたクリエイティブ作品の中から、本レポートではGold以上を受賞した作品を抜粋してご紹介します。

どれもクリエイティブの力によって、生活者がブランドや商品に興味を持つキッカケを作ったり、日々の行動を変化させる事に成功している作品です。

また今年は、なんと言ってもオーストラリアの地下鉄による人身事故防止キャンペーン"Dumb Ways To Die"、インテルと東芝によるユーザー参加型ムービー"The Beauty Inside"、そして日本でもメジャーなブランドDoveによる女性の美しさの本質に迫った"Real Beauty Sketch"、この3作品が複数部門でアワードを獲得し、Cannes Lionsの顔となった年でした。

これらの素晴らしい作品は、あえて割愛させて頂き、私が感銘を受けた作品ベスト5をご紹介していきます。

◎Case01 "Tree Concert" - Friends Of The Earth - BBDO Germany [PR Lion / Gold]

写真01
写真01

街から緑がなくなっていく。都心部によくありそうな問題を解決するために、ドイツの自然保護団体が行なった、寄付を募るためのキャンペーンがこちら。

毎年2,000本以上の木が失われていく街、ベルリン。とある公園の樹齢100歳の大きなクリの木の下に、テントのようなオブジェが設置されました。その上にポロリ、ポロリ、と自然に落ちていくクリの実が、素敵なメロディーと光を生み出します。

技術的にはタッチセンサーを内蔵したテントの表面が、クリの木の実の動きを感知して音や光を発信しているんだと思いますが、緑の素晴らしさをテクノロジーによって幻想的に可視化し、生活者に分かりやすくメッセージした好例です。

寄付するのは携帯電話からSMSでメッセージを送るか、特設サイトからのどちらかで、完了するとコンサートのオリジナル音源がダウンロードできます。

またコンサートで演奏されたサウンドは、ベルリンの著名DJ、Robot Kochによってリミックスされた特別なアルバムとしてiTunes Storeでも配信され、収益は寄付金として使われました。

キャンペーンの結果として、月あたりの寄付金額がキャンペーン開始前の8倍になったそうです。

クリエイティブがパワーコンテンツとなって生活者を動かし、大きなメディア露出にも成功した作品です。

◎Case02 "Bridge Of Life" - Samsung Life Insurance - Cheil Worldwide Seoul [Titanium Lion]

写真02
写真02

年間15,000人もの自殺者がいるという韓国ですが、特に漢江にあるマポ橋は自殺の名所として知られていました。

この大きく広い川に飛び込んでしまう自殺者を、なんとか減らせないかということで生まれたアイデアは、まさに橋を渡り歩くその瞬間にメッセージする、というもの。

橋の上を歩く人のスピードに合わせて、「人生のベストはまだ来ていない」といった心温まる言葉や、幸せそうな家族の写真などが次々に映し出され、1.8kmある橋を渡り終えるまで続いていくのです。

そう、まるで意思を持った橋が、人々に話しかけるように。

仕組みとしては橋の手すりの部分に、おそらくKinect等のセンサーを活用した装置を取り付けていると思うのですが、この取り組みがTVやWEBなど多くのメディアで話題となり、市民全体にもメッセージを届ける事に成功しています。

具体的な成果としてはマポ橋からの自殺者が15%減少し、サムスン生命保険のブランド好意度も10%ほど上昇したそうです。

生命保険会社が、コアバリューの周辺にある社会的な問題を解決した、まさにブランドとユーザーのShared Value(共創価値)から生まれた優れたキャンペーンだと思います。

◎Case03 "The Ultimate Waterproof Test" - GEOX/Amphibiox Urban Waterproof Shoes - SMFB Oslo, Norway   [Cyber Lion / Gold]

「100%防水」がウリのシューズ・ブランドのキャンペーン。USPを分かりやすく伝える手段として出てきたアイデアは「地球上でもっとも雨量が多い場所で、シューズの強さを証明する」です。

施策としては、よくある「擬似体験型」コンテンツを搭載したキャンペーンサイトなんですが、ここの作り込みがハンパないんです。

年間雨量11.7mを誇るインドのメーガーラヤ州にある都市、チェラプンジ。わざわざこの場所に赴き、撮影された主観カメラの映像コンテンツは、html5を駆使した流行のアクションスクロールで進んでいく仕組み。バックにはショウショウと雨音が流れ、本当にこの場所に訪れた気分になるほど超リアルな体験ができます。

街を歩いているとGEOXのシューズを履いた4人のチャレンジャーと出会い、彼らの体験をドキュメンタリー映像で見ることができます。わざわざユーザーに街を歩かせるという演出が、リアリティに一役買っています。

チャレンジャー達は、ぬかるんだ山道を歩いたり、土砂降りのなかフィッシングに挑戦したりするのですが、シューズの中に取り付けられたセンサーは常時100%ドライを計測しています。

ずっと見ていると「今年のフジロックなど夏フェス用にも使えるなー」なんて思い、だんだん商品が欲しくなってくるから不思議です(笑)。

ちなみにこのチャレンジャー4人はFacebookページでファンから募集した人達でキャンペーンのローンチもここからスタートしています。既存ファンをうまく有効活用した、コミュニケーション・プランですね。

成果としては、なんと言っても秋冬のコレクションがたった2ヶ月で完売してしまったことでしょうか。リアルな疑似体験の勝利です。素晴らしい!

◎Case04 "Old Phones Give New Life" - Singtel - Ogilvy &Mazer Singapore  [Mobile Lion / Gold]

ブランドがコミュニケーションを行う際、一つの大切な視点として「生活者の日々のシーンに、どうやったらブランドが介在できるか?」といった考え方があると思います。

そのシーンは、ブランドと直接関係なさそうなところにあったりするので、そう簡単に発見することはできません。ブランドや商品を売りたい気持ちばかりが先行し「企業主語」になってしまうと、なかなかコミュニケーションは成功しないのではないでしょうか。

世界的に高齢化が進んでいる国の1つ、シンガポール。お年寄りの孤独が加速する社会を改善するため、最大手携帯電話キャリアのSingtelが行ったプロジェクトは、携帯電話の周辺にある生活者のシーンに、とてもうまく入り込んでコミュニケーションに成功しました。

みなさんご存知のiPhone、新モデルが発売される度にニュースになりますよね。そして熱心なAppleファンは、次々と新しいiPhoneに買い替えてしまいます。

そんなシーンに目を付け、いらなくなったiPhoneをリサイクルするプロジェクトを展開しました。

これがまた上手いな、と思うのですが、iPhone5発売と同時に店舗にリサイクルボックスを設置。新しいiPhoneを手にした若いユーザーは、気前良く古いiPhone(3Gや3GSなど)をボックスに入れてくれます。

そしてこの古いiPhoneを有効活用し、なんとおじいちゃん&おばあちゃん専用iPhoneとして再生させてしまったのです。

高齢者向けに分かりやすくカスタマイズした5つの専用アプリがプリインストールされ、ピカピカに掃除された"新型"iPhoneは、1,000人以上のお年寄りに届けられました。

「携帯キャリアができること」を必死に考えて生まれたリサイクルのアイデアが、生活者のシーンに入り込み、TV、新聞、ラジオ、WEBなど幅広いメディア露出を獲得しました。現在ではシンガポール以外でのプロジェクト展開も進行中だそうです。

◎Case05 "Back To Vinyl(The Office Turntable) - KONTOR Records - Ogilvy Germany [Design Lion / Gold]

写真03
写真03

今年のカンヌでは、世界120国に拠点を置くエージェンシーOgilvyが各部門のアワードを席巻し大活躍していましたが、その中からドイツのOgilvyの作品をご紹介します。

テクノを中心としたダンスミュージックで有名なドイツですが、ハンブルグにある大手レコード・レーベルKONTORが行ったダイレクト系プロモーションです。

レコード・レーベルでは、昔ながらの流通プロモーションとしてラジオやクラブのDJ、業界関係者にサンプル盤を配る、といった風習があります。サンプル盤を気に入ったDJが番組でかけてくれたり、ストア・マネージャーであれば仕入れの数にも影響するからです。

ところが、サンプル盤は色んなレコード会社やレーベルから大量に送られてくるため、聴かずにゴミ箱へポイと棄てられてしまうことも多いようで、聴いてもらうのも一苦労。

そこでKONTOR社はユニークなDMを作りました。アナログのレコード盤が入った、一見宅配ピザのようなボックス型の封筒なんですが、裏返して組み立てると紙製のターンテーブル(レコード・プレイヤー)になります。

紙製のターンテーブルの上にレコード盤を置き、スマホでQRコードを読み取ると、スマホの画面上にターンテーブルの針の部分が表示されます。画面上の針を指で動かすと、レコードに載せた本物の針のように、該当箇所の曲が聴けるシカケになっています。

成果としては、送った900台のDM(ターンテーブル)から71%がQRコードへアクセスし、さらに42%がオンラインストアまで遷移したそうです。

どう考えてもレコード盤を本物のターンテーブルに載せて聴いた方が早いのですが、「サンプル盤はすぐにゴミ箱行き」というコミュニケーション課題をクリアするため、「わざわざバーチャルで再現する」というアイデアがターゲットの行動を変えることに成功しました。

DMの作りとしてクラフト的にも優れているので、デザイン部門を受賞した作品になります。

今回ご紹介した5つの作品は、どれも生活者がブランドや商品に興味を持つ「キッカケ」をうまく作っています。Cannes Lionsのすべての作品に共通する、いわゆるコア・アイデア(ビッグ・アイデア)の力ですね。

それに加えて私が感銘を受けたのは、クリエイティブのアウトプットとして「非常に優れたユーザー体験」を実現している点です。

アイデアや発想は、努力や訓練によって誰にでも思いつくものだと考えます。思いついたアイデアを、具体的にどういうカタチにして、分かりやすく生活者に届けるのか?ということがクリエイティブ(ものづくり)の本質だと再認識しました。

どんな技術を使い、どんな表現をして、「実現可能な施策」に落とし込んで行くのか?考え、調べ、話し合い、仕様を突き詰めていくことが、結果として優れたユーザー体験につながるのではないか、と考えます。

まだまだご紹介したい作品はたくさんあるのですが、本レポートではここまでにしたいと思います。

最後までおつきあい頂き、ありがとうございました!